研究概要 |
N,N,N',N'-テトラメチルベンジジン(TMB)のメタノール溶液の近紫外光(355,351,308nm)照射により光電流が観測されることはすでに良く知られているが、イオン化機構の詳細については不明な点が多かった。ピコ秒時間分割吸収スペクトルの測定により、TMBカチオンの生成が【S_1】状態から起こることが明らかになったが、溶媒和電子の吸収はブロードであり、可視部の吸光係数もTMB三重項、カチオンにくらべて小さく、室温でははっきりしたスペクトルは観測できなかった。-80℃程度の低温で測定を行ったところ、長波長側の吸収強度が増加し、その減衰がかなり遅くなった。これは溶媒和電子の吸収が重なっているためであると考えられる。一方TMB三重項の動的挙動は励起光強度に強く依存しており、T-Tアニヒレーション、不純物による消光等では説明できなかった。このような挙動はTMBカチオンによる三重項の消光を考えることにより一応説明できるが、減衰曲線のさらに精密な解析が必要である。光電流の立ちあがり時間にも励起光強度依存性が観測され、三重項の減衰と相関のあることが分かった。これはT-Tアニヒレーションによりイオン化が起こり解離イオンの生成があるためである。二光子吸収による解離イオンの生成も無視できないので光電流の立ちあがり曲線は複雑なものとなるが、【S_1】状態から生成したイオン対の解離収量は小さいものと考えられる。これはTMBのアセトニトリル溶液の光イオン化と大きく異なる点である。プロピオニトリル、ブチロニトリル等の溶媒中ではTMBは長寿命イオン対を生成することが知られているが、これらのイオン対の解離収量はメタノール中と同様に小さい。このイオン対の再結合により、三重項の生成が見られ、その収量に対する外部磁場効果を測定したところ数パーセントの減少が見られ、ハイパーファインメカニズムによることがわかった。
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