1.三酸化タングステン・三酸化モリブデンのペレットを作製し、光インターカレーション反応を試みた。いずれも呈色して水素ブロンズの生成が見られたが、光照射に伴なう発熱による暗反応の寄与が非常に大きく、反応機構の解析には不適当であった。 2.酸化スズ-三酸化タングステンの二層薄膜について同様の実験を行なったが、本系ではブロンズ生成が見られなかった。反応条件・前処理等を種々変えてみたが、結果は同じであった。 3.以上の結果より、けん濁微粒子と電極とでは反応機構が異なると推定される。用いた酸化物はn型半導体であるが、電極系では酸化物がp型半導体であることが、反応の必須条件であるかも知れない。そうならば、本化合物を単一で用いては、光インターカレーションは期待し得ない。 4.この障壁を越えるため、酸化チタン-三酸化タングステンの二層ペレットを作製し、光インターカレーション反応を試みた。光照射により水素ブロンズの生成が確認され、導入された水素量も多い。 5.この結果について、両酸化物のバンドギャップはそれぞれ2.9、2.7eV、フラットバンドポテンシャルは-0.4、-0.1Vであるから、層界面においてバンドベンディングの様子が変化し、三酸化タングステンが電気化学反応の上ではp型半導体と同じように振舞っている可能性がある。 5の推定については、まだ検討すべき課題が残っている。たとえば、単純な構造の二層ペレットがきちんとしたバンド接合面を形成しているか否か、あるいは酸化チタン側から光照射した場合のみ反応が進行すること等で、これらは上記反応が光インターカレーションであると結論する上で極めて重要である。理想的な二層薄膜を形成する等の実験で確認した上で、学術雑誌に発表する予定である。
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