研究概要 |
化学反応の溶媒効果は化学の分野の中心課題として古くから多くの研究が行われてきているが、分子レベルでの研究はまだほとんどなされていない。本研究では化学反応の溶媒効果の分子レベルでの理解を目指してラジカルビーム法を開発し、アルコキシラジカルの前期解離過程の溶媒効果を研究した。ラジカルビームは超音速自由噴流させた前駆体にエキシマーレーザーを集光して生成した。前駆体としてメチルアルコール、エチルアルコールを用い、メトキシラジカル,エトキシラジカル,およびこれらのラジカルとAr,Kr等の希ガスとの錯体を生成した。これらのラジカルについて、レーザー誘起ケイ光法を用いて第一励起状態の電子スペクトルを測定し、その帰属と前期解離過程(RO・→R・+O・)の検討を行った。この結果、メトキシラジカルについて【〜!A】【^2A_1】状態の全対称伸縮振動(【υ_1】)と縮重変角振動(【υ_5】)を新たに帰属した。また、【〜!A】状態の前期解離は、C-O伸縮振動(【υ_3】)のυ=8〜9で始まり、解離エネルギーは約5100【cm^(+1)】であることが初めて明らかになった。この解離反応は、【υ_5】モードの励起により大きく促進されることがわかり、報告されている理論計算との比較により、解離型の【^4A_2】状態とのスピン軌道相互作用により解離が起こると結論した。また、Ar,Krとの錯体の電子スペクトルの解析より(1:1)および(1:2)錯体では、希ガス原子はメトキシラジカルのC-O結合軸上に付加して溶媒として働き、解離限界が100【cm^(-1)】以上安定化することがわかった。錯体では解離速度が大きく促進されることがわかり、前述のスピン軌道相互作用による解離機構が確証された。この結果は、メトキシラジカルの関係した燃焼化学や大気化学の研究の重要な基礎的情報になると考えられる。この研究を更に発展させるために、強力なパルスノズルを開発し、上記のラジカルおよびエトキシラジカルについて実験を行った。スペクトルの解析および解離過程について現在検討を進めている。
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