研究概要 |
トロポロンとエチレンの付加反応はヒドロキシル基の位置異性体が1/1で生成することが判った。トロポロンの代りにベンゾイルオキシトロポン,ベンジルオキシトロポンとの付加により、対応する異性体が2/1,4/1で生じベンジルオキシトロポンが望む付加物を生成比よく与えた。これをHIで処理してトロポロンとの付加体に誘導した。このものの不斉塩基接触不斉アシロイン転位を行った。ブルシンと平衡條件下に塩として沈澱させ、7%の化学收率で【[α]_D】-37゜の光学活性体を得た。このものはヘキサン過飽和溶液から接種法による優先晶出法を試みたがラセミ晶を与えるのみであった。一方トロポロンメチルエーテルのβ-シクロデキストリン包接体の光異性化を行った所、65%の不斉收率で7-メトキンビシクロ[3.2.0]ヘプタ-3,6-ジエン-2-オンを与えた。これを出発原料にして部分光学活性のビスデオキシキケントンジンを全合成した。これはザルコマイシン族の抗生物質である。又、既にトロポロンメチルエーテルの光付加物から誘導の完了しているイリドジアールから、二量化に引続く官能基変換によって菌代謝ジテルペンの一種、シクロアラネオセンの全合成を達成した。現在、5-メチルトロポロンとエチレンとの付加体、1-ヒドロキシ-5-メチルビシクロ[3.2.2]1+-3,6-ジエン-2-オンの生成條件の最適化とその光学活性4,4-ジ置換シクロヘキセノン類の酸化を行っている。今後は母体トロポロンで得られたE知見を基に、多くのセスキテルペノイドに見られるパーヒドロインダン,パーヒドロナフタレン骨格への誘導を達成し、ムジガジアール,イソバレンセニン酸などの生理活性天然有機化合物への誘導を行う。そのため、鋭意、優先晶出法の検討を行う予定であるが、当初、目標とした、トロポノイド付加体の不斉誘導は成功したので、今後行う研究によってこの方法の有用性を明かにすることができるであろう。
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