研究概要 |
本研究は大気中の水銀の分布と発生源を明らかにするために日本各地の環境大気および地球化学的試料中の水銀濃度を測定し、水銀汚染の実態を解明するための基礎資料を得ようとするものである。とくに、日本の酸性雨の原因が東アジア地域からの汚染物の移流によるものといわれるように、近隣諸国における重工業活動の活発化にともなう気圏への水銀放出量の増大が見込まれることから、本年度は大陸からの影響を調べるため、沖縄,山陰,北九州地方の3地域,対称地域として南関東地方および噴火中の大島三原山において調査を行なった。強い北西風の吹く気象条件下で、大陸に面する地域で測定した外洋性大気中の水銀濃度は内陸性大気中の値より低く、沖縄本島1.7〜17ng/【m^3】,平均5.5ng/【m^3】(23試料),山陰地方1.4〜10ng/【m^3】,平均5.6ng/【m^3】(16試料),北九州地方1.0〜3.4ng/【m^3】,平均2.0ng/【m^3】(19試料)であった。それに対して、千葉市弥生町定点2.9〜42ng/【m^3】,平均12ng/【m^3】(82試料),千葉市定点周辺12〜114ng/【m^3】,平均48ng/【m^3】(15試料),房総半島4.2〜15ng/【m^3】,平均8.5ng/【m^3】(13試料),横浜市周辺2.4〜33ng/【m^3】,平均12ng/【m^3】(13試料),神奈川県葉山町6.6〜31ng/【m^3】,平均16ng/【m^3】(15試料),三浦半島8.1〜64ng/【m^3】,平均29ng/【m^3】(7試料)であった。一方、大島において、噴気孔ガス中66〜2753ng/【m^3】,平均675ng/【m^3】(12試料),溶岩地帯1.9〜40ng/【m^3】,平均14ng/【m^3】(8試料),三原山の風上に位置する海岸地帯2.2〜9.7ng/【m^3】,平均5.4ng/【m^3】(11試料),風下の海岸地帯11〜25ng/【m^3】,平均19ng/【m^3】(3試料)であった。 したがって、日本における大気中の水銀発生源は外洋性のものではなく、内陸の人類活動による汚染および自然界起源によるものであることが示唆され、また、その分布は過去の環境汚染が示すように局地的な形で存在するものであることが判明した。しかし、さらにその分布を詳細に調査するのには、なお地球化学的研究が不足しており、この方面における記録集積が今後の研究課題でもある。
|