研究概要 |
生体試料中の微量元素の分析法の正確さを評価するため、含有量既知の生体標準試料を用い、黒鉛炉原子吸光法(GFAAS),誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES),同位体希釈質量分析法(IDMS)について検討を行った。生体標準試料としては、米国標準局(NBS)のOyster Tissue(カキ)とCitrus Leaves(柑橘葉)および国立公害研究所のムラサキイガイと茶葉を用い、Pb,Cd,Cuの定量を行った。GFAASでは主成分元素による化学干渉、ICP-AESではマトリックス元素による物理干渉に重点をおき、IDMSは最も正確な基準分析法として使用した。 PbのGFAASでは共存するClによって負の干渉をうけることが知られているが、ムラサキイガイ(CI含量2%)では吸光度が1/5に減少し、茶葉(Cl含量700μg/g)でも吸光度が2/3に減少し、いずれの場合も標準添加法の使用が必要であった。生体試料中のPb含有量は低いため、ICP-AESで直接定量することは不可能であった。GFAASはCdに感度が高いため、カキ、ムラサキイガイのCd分折では試料溶液を希釈するためマトリックス効果を受けず、柑橘葉 茶葉のCd分析でも干渉はなかった。CdのICP-AESではカキとムラサキイガイに対して検量線のマトリックス合わせの効果を調べたところ両者に大きな差は見られなかったが 主成分元素を加えたほうがIDMSに近い値となった。CuのGFAASの場合には、マトリックス成分の影響をうけなかった。ムラサキイガイ中のCu(5μg/g)のICP-AES分析では、検量線に主成分元素を加えた場合には、バックグランドを引きすぎる傾向が見られ、試薬中の不純物に起因すると考えられる。Cu含有量10〜100μg/gの柑橘葉,カキではこのような問題は起こらなかった。IDMSによって得られたPb,Cd,Cuの分析値は、いずれの生体標準試料についても保証値とよく一致した。
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