研究概要 |
私共はアジドマンガン(【III】)テトラフェニルポルフィリン錯体【Mn^(】III【)】(tpp)【N_3】の2-メチルテトラヒドロフラン(MTHF)溶液に可視光を照射することにより、室温ではMeTHFにより還元され、マンガン(【II】)テトラフェニルポルフィリン錯体【Mn^(】II【)】(tpp)が生成し、77K低温がラス状マトリックスでは酸化され、窒素ガスの発生を伴ってマンガン(【V】)ニトリドテトラフェニルポルフィリン錯体【Mn^(】V【)】(tpp)Nが生成することを見出している。すなわち上記光化学反応は溶液が剛性ガラス状であるか流動性であるかによって異なった生成物を与えた。今回上記光化学反応を詳細に追跡した結果、MTHFの流動性溶液においても【Mn^(】V【)】(tpp)N錯体が生成することが明らかになった。 【Mn^(】III【)】(tpp)【N_3】のMTHF溶液の電子スペクトルは-70℃において473,582,631nmに吸収ピークを示す。この溶液に可視光(>440nm)を照射するとこれら吸収ピークの吸光度は減少し、新たに2種の錯体の生成を示す吸収ピークが419,533nmと433,568,606nmに現われた。前者の吸収ピークは【Mn^(】V【)】(tpp)Nの吸収ピークと一致し、後者は【Mn^(】II【)】(tpp)の吸収ピークと一致した。すなわち-70℃の流動性溶液中では可視光照射により、酸化反応と還元反応が同時に進行することが明らかになった。-70℃の光化学反応のスペクトル変化は等吸収点を示し、【Mn^(】II【)】(tpp)と【Mn^(】V【)】(tpp)Nの生成量比は照射時間によらず一定である。しかしながら-10℃においては還元反応が酸化反応に比べて有利に進行し、25℃における光化学反応ではほぼ100%【Mn^(】II【)】(tpp)錯体が生成する。-80℃における光化学反応では【Mn^(】V【)】(tpp)N錯体が生成し、【Mn^(】II【)】(tpp)錯体の生成は極く微量である。 以上のことより、MTHFにおける【Mn^(】III【)】(tpp)【N_3】の可視光照射による光化学反応は本質的に還元反応と酸化反応の競争反応であり、【Mn^(】V【)】(tpp)Nの生成にとって溶液が必ずしも剛性ガラス状である必要はないことが明らかになった。
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