研究概要 |
これまでの我々の研究によりキイロショウジョウバエのG6PD遺伝子の発現を調節する最も強力な遺伝的要因はG6PD領域に挿入したり離脱したりする可動因子である可能性が示唆された. 本研究においてはこの事を確認するために恒常的にG6PDを過剰生産する突然変異系統のゲノムDNAライブラリーより, 構造遺伝子の一部をプローグとしてクローンを分離し, その制限酵素地図を作製, さらにシークエンスの決定を行った. その結果, この突然変異系統(2512H)では転写領域の直前に3.6Kbの挿入配列(IS1)とイントロン中に42Kbの挿入配列(IS2)をもつことが分った. これらの塩基配列からIS1は2種の欠損方P因子が2つ宛つらなっていること, IS2はATに富み, 両端に反復配列をもたない今迄に報告されていない型のトランスポーソンであることが分った. また, 実験的に作った復帰体の構造解析から, G6PDの活性上昇の主たる原因がIS1にあり, しかも2種の中, 中央に位置する欠損型P因子が問題であることをつきとめた. さらに, このIS1の挿入部位は転写開始点の約30塩基上流であって一般にTATA boxといわれている部位に相当すること, 挿入によってmRNAの転写開始点に変化はないこと, また, DNase高感受性部位がIS1中に存在することが明らかとなった. さらに, 他の高G6PD活性突然変異系統二つにおいても全く同様の挿入配列が同じ位置に見られること, 野性系統と突然変異系統のかけ合せと, それに続く人為選択とにより, 実験室内においてIS1およびIS2の両方を野性型系統のG6PD遺伝子領域に転移させうることが判明した. このようなG6PD遺伝子領域へのトランスポーソンの挿入は自然界においては稀れであり, 特にIS1と同じものは札幌の集団以外(大阪, 沖縄, 台湾)には見られないという興味ある知見もえられた.
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