研究概要 |
ヒトMHCクラスII抗原遺伝子領域には, 6個のα鎖遺伝子(DR_α, DQ_α, DX_α, DP_α, SX_α, DQ_α)と8個のβ鎖遺伝子(Dβ1, DRβ2, DRβ3, DQβ, DXβ, DPβ, SXβ, DOβ)が, α鎖-β鎖遺伝子対を形成している. この多重遺伝子群の生成機構と, それに伴う機能分化の機構を調べるために, 以下の実験を行なった. 1.ヒトβ細胞株のDNAからジェノミックライブラリーを作製し, クロモソームウォーキングによって計500キロ塩基対の領域をクローニングし, クラスII遺伝子の配置と遺伝子間領域の塩基配列上の特徴を調べ, 多重遺伝子群の生成機構を検討した. Aluファミリーなどの反復配列の存在様式を調べた結果, DQ遺伝子対とDX遺伝子対の構造が極めてよく似ていることが確認された. またDP遺伝子対とSX遺伝子対の間にも高い相同性がみられる. これらの結果から, 租先型のα-β鎖遺伝子対が, 少なくとも7回重複して現在のクラスII遺伝子領域を形成したと考えられる. また, この結果は,各クラスII抗原分子の多型性の形成過程を考える上で大きな示唆を与える. 2.DR, DQ, DP遺伝子対が形成されるに伴って, 各遺伝子産物の機能もまた分化したと考えられている. 浜松医科大学微生物学教室の吉田教授, 小出助教授らとの共同研究によって, 各遺伝子対産物の機能上の差異を検討した. 各遺伝子対をコードするコスミドDNAをマウスL細胞内に導入し, 得られた形質転換細胞株について, T細胞増殖反応と抗体産生反応の活性化能を調べた. DR, DQ, DP抗原分子はいずれもT細胞増殖反応を活性化した. 一方, DRおよびDP抗原分子が抗体産生反応を活性化するのに対してDQ抗原分子は全く活性化能を示さなかった. この結果は, DQ抗原が機能的に他の抗原分子と異なることを明確にした. 機能分化における遺伝子重複の役割についても検討した.
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