研究概要 |
ショウジョウバエのP因子には, 3個のイントロンが含まれが, 生殖細胞系列ではこれらがすべて切り出され, 4個のORFで, おそらく1種の酵素タンパクが作られるものと思われる. そして, これは転位酵素と考えられる. 細菌のTn3などにみられるような制御因子に関する遺伝子は特に存在しないと思われる. しかし, ハイブリッド・ディスジェウィシスの実験から分るように, PサイトタイプによってP因子の転位が抑制されることは知られている. この抑制機構として私達は, 次のような考えを提唱した. すなわち, 「完全型P因子が転位すると共に不完全型P因子はゲノム中に散在するようになる. この不完全型P因子によってコードされるタンパクのなかでDNAにバインドするドメイン(おそらく ORF1周辺)を保持している分子が制御因子の役割を果たす. 不完全型P因子がより多くゲノム中に存在すれば, 抑制はより強くなろう. 不完全型P因子由来のタンパクが抑制的に働く機構は他にも考えられる. が, いずれの場合も, 転位を抑制するには不完全型P因子のコピーがゲノム中に相当数必要となろう. 本研究の目的は, この推測を実験的に検討することにあった. 限られた方法ではあるが, 本研究では不完全型P因子のみをもつ系統のなかに, 強いPサイトタイプを形成するものがあることを確認することを試みた. 結果的に, 小笠原父島由来の1系統が得られた. 今後は, 抑制因子の実体, 作用機序などより生化学的な研究が必要となる. 本研究で得られた系統や考え方は, そうした研究の基礎となるものである. さらには, 挿入部位に8bpの重複をもたらす可動因子として, トウモロコシ(Ac), キンギョソウ(Tam), アフリカツメガエル(1723)など他生物のものが研究されているが, こうした因子と比較検出する研究も新しい発見を導く可能性があろう.
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