研究概要 |
宮崎県金華山, 大分県高崎山, 宮崎県幸島に滋賀県霊仙山を加えた4カ所で, ニホンザルの社会行動と社会構造を採食戦略の観点から見直す研究を行った. 後3カ所では長年月の観察資料が蓄積されており, 過去の資料の堀りおこしと分析にせ力を注いだ. 1.金華山の野生群は厳しい冬季の環境で採食パッチ数を増やし採食時間を延長して食物欠乏を乗り越える努力をしており, これらの結果に優劣順位による個体間の差は現れなかった. 2.投与人工餌への依存度が高い高崎山では, 1975年以来餌減量を行ったところ人口学的パラメーターがこれに追随し, 採食量(エネルギー)が繁殖成功率に直接的影響を与えていることが判明した. 投与餌摂取量は個体(家系)の順位によって差があり, 繁殖成功率も上位は高く下位は低い. しかし, 林内自然食物の摂取は, 採食時間やスピードに差はあっても採食量そのものには個体順位の差は生じない(分析中). 幸島では小量の餌で餌付けされているが, 長期的繁殖成功度は最優位家系の中で下位に位置するメス達が低かった. その原因は彼らが厳しい社会的位置にいるためと判断された. すなわち, 頻繁に攻撃され, 順位が不安定で, 大幅な下落を示したり, 順位低下後高い死亡率を示した. 順位上の位置は社会的な態度に大きな影響を与え, それが採食戦略にも大きく影響した. 4.霊仙山では群れ分裂後の上位家系(主群)と下位家系(分裂群)の人口学的パラメーターの分析の結果, 下位は独立後, 上位に比べて繁殖状況が好転した. すなわち, 不利な採食条件にある下位家系が分裂・独立することによって上位と同じ条件を獲得すると言える. このように, 餌付毛条件下の優劣順位による採食条件と連動した繁殖効率の差が, 自然環境では緩和されたり解消されたりすることが明らかになった.
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