研究概要 |
分裂酵母Schizosaccharomyces pombeの有性生殖は, 培地中の窒素源の枯渇により誘導され, 接合, 減数分裂, 胞子形成の順に進行する. 有性生殖の開始に関与する遺伝的制御系について研究し, 以下の成果を挙げた. 1.接合の開始に関与するste遺伝子の解析: 単離した多数の接合不能変異株(ste^-)について遺伝解析を行ない, 未報告のsteII遺伝子を発見した. 既知のものをも含め計11個のste変異株のうち, steI, steIIなど, 7個の変異株では接合のみならず, 減数分裂の開始も欠損していることがわかった. さらに, 窒素飢餓条件下での細胞の静止期移行について調べたところ, stel変異株のみ正常な移行が認められなかった. しかし, この形質はsteI遺伝子の突然変異によるのではなく, 別の未知の遺伝子(trsIと命名)の変異に基づくことを証明した. trsI遺伝子は細胞のストレス耐性に関与し, 熱ショックタンパクの誘導を調節することが明らかとなった. 2.減数分裂の開始に必須のmeiI遺伝子の解析: クローニングしたmeiI(h^+接合型遺伝子matI-Pi)遺伝子の全塩基配列を決定し, 192個のアミノ酸をコードしうるCRFを見出した. 予想されるアミノ酸配列とホモロジーのある既知タンパクをデータベースにより検索したところ, パン酵母の接合型遺伝子MATα2のC末端や, ショウジョウバエ等のホメオドメインと類似の配列が見つかった. 次に, meiI遺伝子の転写調節をノザン法により調べ, 0.6kbのmRNAが窒素源飢餓条件でのみ転写されることを示した. さらに, meiI遺伝子と大腸菌lacZ遺伝子を結合した融合遺伝子を作成し, S.pombe細胞内に導入した. lacZにコードされたβ-ガラクトシダーゼ活性が, 細胞を窒素飢餓条件で培養した時のみ出現することがわかった. 他のいくつかの実験から融合遺伝子はmeil遺伝子のプロモーターの制御下で発現しており, 発現制御領域の解析が可能となった.
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