研究概要 |
ホウレンソウから得られる光化学系I粒子をエーテル抽出することによりほとんどのアンテナクロロフィルが取り除かれ, またP700あたり約2分子存在するvitamin K_1もほぼ完全に抽出されることが明らかになった. もしこのVK_1が系Iの電子受容体A_1であるとすると, この標品ではP700からの電子はA_1より先には行かないはずである. 本研究ではこの点について検討し, 世界に先駆けて以下の新知見を得た. (1)flashによる励起後, P700からA_0に伝達された電子は速やかに(T_<1/2>=40nsec)P700に戻る. 同時にP700の三重項状態の生成が認められた. (2)VK_1再添加によりA_0から電子はVK_1に伝達され, P700の速い再還元はみられなくなった. (3)A_1によると考えられているEPR signalはVK_1抽出と共にみられなくなった. (4)しかし, 励起光として連続光を用いると電子はA_1より先に伝達されることが明らかとなった. VK_1をP700当り2,1,0個含む系I標品を用いてその電子伝達効率を10Kでの閃光照射によるP^+,center A^-,B^-の蓄積効率から推定したところ, VK_1=0のときにも安定な電荷分離がおきるが, その効率はVK_1=1 or 2のときに比べて約1/500であった. (5)VK_1(A_1)のない系I標品で見られるA_0からP700への電子逆行に対する波長依存性の測定から, A_0は690, 430nm付近に吸収を持つchl-aのモノマーであると推定された. (6)VK_1(A_1)のない系I標品はP700-A_0の酸化還元状態によってその収率が変化するケイ光が観察される. ピコ秒-ナノ秒領域でのケイ光スペクトル変化を90Kで測定した結果, この蛍光(F700)の寿命はA_0^-からP^+への電子逆行速度(t_<1/2>=約60nsec)にほぼ一致し, したがってこれはA_0^-/P700^+の電荷再結合に伴なって発生する, いわゆる遅延ケイ光であることがわかった. (7)以上からVK_1はA_1であると考えられるが, A_1部位のbypass electron flow(flow rateはA_1がある時の約1/500)があるものと推定された.
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