研究概要 |
生物の種あるいは種分化を研究するのに交雑実験による遺伝的親和性や生殖的隔離の解析に基づく方法が有力である. しかしこの方法は対象とする生物の有性生殖過程がよく知られており, しかもそれが実験的に制御が可能な生物群にかぎり適用できる. 下等植物の中には有性生殖がないかあるいは未知のもの(このような生物を無性生物と呼ぶ)が多く, これらの生物にはこの方法が適用できない, 本研究はこの点を踏まえ, 既に形態・微細構造・光合成色素組成など従来の分類形質に基づき相互の類縁関係がある程度明らかにされている単細胞性紅藻を選び交雑実験以外の遺伝的根拠のはっきりした解析方法の捜索・開発を目的とし実施した. 頭初予定した, 葉緑体内タンパク質の1種フラクションー1-タンパクの電気泳動パタンによる解析, 藻体構成総タンパクの二次元電気泳動, アイソザイム等の解析を試みたが, 単細胞紅藻特有の細胞外被構造が生化学的処理の障害となってことごとく失敗(改良すれば可能)した. そこで主に光合成色素のうちフィコビリン系色素に着目して, それらの組成の詳細に分析と, 有系分裂過程の微細構造解析に方向を転換した. 独自に単離, 培養したものを含め7属13種の藻を調査し, これらのデータを加えて, 類縁関係の解析を行った. その結果, 単細胞紅藻は, cyanidium-, Rhodospora-, Rhodella-, Rhodosorus-, Porphyridium-グループの5群に識別された. 初めの4群は各群内で, 生育分布, 生殖法, 光合成色素系が共通し, さらに基本的な葉緑体微細構造と有系分裂過程をもつが, 一定の移行傾向が認められた. 一方最後の一群は共通した葉緑体微細構造と生殖法をもつが, その他の形質は多様であり, 上述の群とは明らかに異なる進化過程をもつことが判明した. 前者を系統群, 後者を祖先群と認識した. 現在の各群内の種間の類縁関係の解析を進めている.
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