研究概要 |
染色体の構造変換の現象の1つとして分裂前期の染色体凝縮, その結果として形成される中間染色体の形態に焦点を当て, 自然では種によって一定の形態を示すと言われる中期染色体の形態が, 人為的にどの範囲まで変化し得るかを調べた. 材料は主にユリ科植物の花粉母細胞を使用した. 前減数分裂期の花粉母細胞を含むエンレイソウ植物体を短期間高温処理すると, 処理時期, 処理時間と温度に依存して多様な分裂型を示すとともに, 染色体の凝縮度も多様であった. 特にS期で30度, 4日間処理された時, 花粉母細胞は体細胞分裂に転換し, 中期では異常に凝縮した染色体が出現した. 染色体の長さは, 正常に比し約1/3まで短縮していた. 培養系に移された花粉母細胞に対する温度効果を合わせると, 中期染色体の長さは, 自然における値を1とした時, 0.25から1.7までの範囲の多様性を示し, この範囲でなら染色体形態を任意にコントロールできることがわかった. 次に化学的処理による染色体凝縮の可能性についていろいろなDNA合成阻害剤の効果を調べた. その中で5-フロロウラシルは, 染色体形態に顕著な効果を示した. 最も有効な結果はテポウユリ花粉母細胞を合糸期に取り出し, この薬剤4mMを含む培地で, 培養した時に得られた. またこの薬剤は, S期で培養された体細胞分裂型の花粉母細胞や根端の体細胞分裂細胞においても顕著に認められた. 次に細胞分裂前期における凝縮の進行と染色体DNA合成との関係について調べた. 減数分裂前期の合糸期には, S期に末複製の少量のDNAが合成されるが, このDNA合成を2種の異なる作用機構をもつ薬剤で阻害し, 減数分裂の進行, すなわち凝縮の進行との関係を追跡した. その結果, 染色体DNAの合成完了は凝縮という染色体自身の構成変換にとって必須条件であることがわかった.
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