研究概要 |
細胞性粘菌を低温処理すると, 集合期まではアメーバのままで形態形成を行わないが, それ以降では球形または亜鈴型の構造となり, その内部での胞子細胞に分化する. この事実は低温下でも予定胞子特異小胞(PSV)の形成及び安定した保存が保証されることを示している. 本プロジェクトは低温下におけるPSVの形成と保存の機構を明らからにすることを目指している. そのためには, 対照として常温下でのPSVの性質及び安定性に関わる知見が必要である. そこで, 以下の研究を遂行した結果, 重要な知見を得たので報告する. 1.予定胞子特異抗原の同定: PSVの検出には抗胞子抗体を利用しているが, この抗体が反応する抗原種についてはこれまで知見が無い. そこで, immunoblot法により, (1)抗原の同定, (2)発生段階にける消長, (3)脱分化過程における消長について調べた. その結果, 分子量が約200, 140, 116, 96, 80, 70, 60, 40, 16kDの主要抗原種が抗胞子抗体と反応することが明らかになった. 更にPSVへの抗原の蓄積が2段階に進行するが, 脱分化時にはこれらの抗原は同時的に分解酵素に晒される事が明らかになった. 2.予定胞子特異小胞の安定性に対するサイクリックAMPおよびそのアナログの影響: (1)細胞密度の高い(100万細胞/平方センチ)単層培養条件下及び, (2)細胞密度の低い(1万細胞/平方センチ)静置培養条件下ではPSVは崩壊するが, サイクリックAMP, 2'-デオキシサイクリックAMP及び8-ブロモサイクリックAMPはPSVを安定化した. 3.PSVの安定性とリソソーム及び細胞骨格の関係: リソソーム酵素の阻害剤及び微小管破壊剤はPSVを安定化した. 4.細胞分化に対する8-ブロモサイクリックAMPの影響: 2mM以上の8-ブロモサイクリックAMPは予定柄細胞から柄細胞への, 予定胞子細胞から胞子への分化を促進した. しかし, 生長期や集合期の細胞には影響を与えなかった.
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