研究概要 |
イラクサ目の資料の収集に努め、エゾエノキ,ハルニレ,ウラジロエノキ(以上ニレ科),オオバイヌビワ,ガジュマル,バルランイヌビワ(以上クワ科),ヤナギイチゴ,イワガネ(以上イラクサ科)などの液漬標本を入手した。これらはパラフィン切片法により連続切片をつくり、花の内部形態を詳細に観察した。 ニレ科については5属8種の花の内部形態を観察した。ムクノキ属とエノキ属では子房基部で1本の環状の管束が2本の背側管束、2本の腹側管束、さらに1本の胚珠管束の計5本に同時に分れる。胚珠管束は子房室上部で胚珠へ入ってしまい、Bechtel(1921)がエノキで報告しているように、さらに上部へ昇ることはない。ムクノキ属とウラジロエノキ属の雌ずいの管束走行はエノキ属のそれと良く一致することがわかった。 ケヤキの雌ずいの器官発生を観察した。特にfloral apexと胚珠発生の位置の関係に注目した。中軸胎座型に由来したものなら胚珠はfloral apexの位置に形成され、側膜胎座型に由来するならfloral apexから離れた位置に胚珠が形成されると考えられる。ケヤキの胚珠発生の位置はfloral apexから離れた2つの心皮の縫合線上であった。またごく稀にみられた3心皮性の雌すいでも同様の結果が得られた。この結果ケヤキは側膜胎座型から由来するとする考えが支持される。 Eckardt(1956)はトチュウの花の内部形態を観察している。彼は胚珠へ入る管束は、子房室中部の高さで、腹側管束(ventral Randbiindel)を分枝するとした。しかし胚珠管束と腹側管束の分岐は子房室の基部で起る。雌ずいの管束走行からは、トチュウ属はニレ属とエノキ属の中間型とみなせる。
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