研究概要 |
哺乳動物の生殖細胞は, 始原生殖細胞を起源とし, 周囲の体細胞との相互作用のもとに分化し成熟する. しかし全ての始原細胞が正常に生殖細胞へと分化するとは限らず, 異常な分化をして腫瘍化したり, 欠損して不稔生殖巣の原因となることがある. マウスの精巣に先天的に発症する奇形腫(精巣性奇形腫)は, 胎仔期の精巣の精細管内で始原生殖細胞が初期胚細胞に転換することにより形成された腫瘍である. 精巣性奇形腫高発系統129/Sv-terマウスには, 劣性突然変異遺伝子teratoma(ter)が存在し, terホモ接合体では生殖細胞が欠損し, かつ精巣性奇形腫が著しく高い率で発症する(Noguchi and Noguchi,1985). 本研究では生殖細胞の腫瘍化をter遺伝子を手掛りとして解析するために, (1), 129/Sv-ter系統マウスの発生過程における始原生殖細胞でのter遺伝子の発現時期と部域, (2), 129/Sv-ter系統以外の遺伝的背景においてter遺伝子の発現がいかなる変更をうけるか, (3), 初期胚細胞へ転換する始原生殖細胞と正常に分化する始原生殖細胞を識別できるマーカーの検討, を目的に発生遺伝学的に研究を行った. 次の成果が得られた. (1), 129/Sv-ter系統の8.5-12.5日胎仔では, terホモ接合体で, 始原生殖細胞出現後の移動期から精巣原基への移入後までに上記欠損現象は生ずるが, 精細管外では奇形腫の発症はみられない. (2), 自然には精巣性奇形腫を発症しない系統であるC57BL/6Jに, 129/Sv-terから交配導入したter遺伝子は, terコンジエニックマウスのC57BLの遺伝的背景のもとでは, terホモ接合体で生殖細胞欠損はおこすが, 精巣性奇形腫形成をは高発させなくなった. 従って, 精巣性奇形腫形成には129/Svの遺伝的因子が必要で, その作用がter遺伝子により増幅させるといえる. (3), PNAレクチンは始原生殖細胞から初期胚細胞性の奇形腫細胞を識別できるという示唆を得た.
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