研究概要 |
無尾両生類幼生尾部の筋組織は、アクチンをかなり特異的に分解する酵素を含む。本年はこの酵素(Protease【T_1】と名付ける。)を完全精製して次のことがらを明らかにした。1.人工基質に対する特異性。次の基質に対する活性を調べた。Z-Phe-Arg-MCA(MCA:methylcoumarinanilide),Bz-Arg-MCA,Arg-MCA,Z-Arg-Arg-MCA,Boc-Val-Pro-Arg-MCA,Boc-Ile-Glu-Gly-Arg-MCA,Pro-Phe-Arg-MCA,Glt-Gly-Arg-MCA,Gly-Pro-MCA,Boc-Val-Leu-Lys-MCA,Lys-Ala-MCA,Boc-Glu-Lys-Lys-MCAなど26種について行った。このうち分解活性があったのは、Boc-Val-Leu-Lys-MCAとZ-Phe-Arg-MCAの2つで特に前者に強い活性を持っていた。Lys,Argなどの塩基性アミノ酸のカルボキシル基側をよく切断するらしい。この基質特異性からも、Protease【T_1】はカテプシン群の酵素とは考えにくく、かなりユニークな酵素と考えられる。2.酵素阻害因子の性質について。本酵素は、精製のある段階まで、阻害因子と結合しており、native actinを切断できない。このenzyme-inhibitor複合体を使って、両者の解離条件を調べた。pH4以下の酸性条件で透析を行うと、阻害因子は解離して透析外液に出てきた。そして、酵素はnative actinを切断するようになる。また外液と内液を再構成することにより、複合体が再形成されることを確認した。このようにProtease【T_1】の活性発現には、組織内のpHが関与していると考えられる。3.Protease【T_1】に対する抗体。精製酵素をウサギに免疫してtiterの高い抗体を得ることができた。この抗体と尾部の各種組織の抽出液と反応させてオクタロニー判定を行ったところ、変態最盛期の収織尾部筋組織にのみ酵素が存在することがわかった。さらに間接蛍光抗体法で調べたところ、筋組織は陰性で、崩壊筋周辺の間充織が強陽性であることがわかった。今後この抗体を使って、Protease【T_1】の合成速度の調節などの問題解明に研究を進めたい。
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