研究概要 |
すでに先年発表した光吸収性と反射性の色素胞の反応を同時測定する装置(Oshima et al.,1984)の改良を試み, 2種の色素胞の中枢神経系による差動的制御の解明に便利に利用できるようにした. ついで, 材料としてイズミダイ(tilapia)を選び, 皮膚中の色素胞の分布を検索した. その結果, 黒色素胞は鱗の真皮中に存在するもの, 同じく真皮に存在するが, 単離鱗には付着してこないものが存在し, 中枢による制御方式も異なることを見出した. ナマズ, コイを使用し, 末梢における色素胞の神経支配が交感神経のみであり, 副交感神経の関与がないことを解剖学的に示し, 従来の生理学的・薬理学知見を確証した. サカサナマズ(upside-down catfish)は腹部を上にして遊泳することで知られているが, 通常の魚種には見られない腹部皮膚にも色素胞, 特に黒色素胞が多数顕存在し, 隠蔽色の発現に役立っていることを確認した. この魚種の背部・腹部の黒色素胞は薬理学的解析により, ともに交感神経節後繊維により細胞内色素凝集が制御されていることを明らかにした. この背部・腹部の黒色素胞は中枢神経系により差動的に制御されおり, したがって, 背部, 腹部の皮膚色の変化の過程, ことに速度が異なることを見出した. しかし, この差が効果器, すなわち色素胞自体の運動性の差に起因する可能性が残り, 検討を進める予定である. ネオンテトラの体側の青紫色の縦縞が日周期的に変化し, 夜間は青緑色になることが知られている. 通常の魚類の体色の日周期的変化, 特に夜間皮膚色が明化する現象は, 松果体からのメラトニン分泌が低照度下で増加することによるが, ネオンテトラでは, 縦縞内の運動性虹色素胞が直接に光を受容し, その結果, 細胞内のグアニン小板重層の各小板の間隔を狭ばまり, より短波長側の光を反射するように変化するものと推論される. したがって, この反応には中枢神経系は直接に関与していないと結論された.
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