研究概要 |
カイコの胚休眠は, 発育中の卵巣に作用する休眠ホルモンと, 受精後に胚発生の初期段階で発現するpnd^+遺伝子によって決定される. 突然変異pndはpnd^+の欠如による非休眠性の胚であり, 野性型雄との交配によりヘテロ卵(pnd/+)となった場合には休眠卵となる. 本研究では受精後pnd^+遺伝子によって引き起こされる生化学的変化について解析し, あわせてpnd^+遺伝子の産物(pnd^+蛋白質)の同定及び精製, さらにpnd^+遺伝子の作用について解析を行った. 1.胚休眠の開始に伴う代謝変化 pndホモ卵とヘテロ卵を用いて, 産卵後の呼吸量, DNA合成, RNA合成, 蛋白質合成などの胚発生に伴う変化を調べた. その結果両卵で産卵後24-36を臨界期として著しい代謝変化が生ずることが分った. 特にヘテロ卵では呼吸低下の約3時間前にpnd^+蛋白質が合成されることから, この蛋白質がヘテロ卵での休眠代謝の引き金になっている可能性が示唆された. 2.pnd^+蛋白質の精製と抗体の作成 pnd^+蛋白質は分子量約22,000の塩基性蛋白質である. 産卵後36-48時間のヘテロ卵を材料として, TSKSP-5PW(強イオン交換体), 及びTSKG-3000SW(分子篩)によりpnd^+蛋白質の精製を試みた. その結果かなり精製がすすみ, SDSPAGEによりメインバンドとして検出できるようになった. 現在この分画を用いてモノクローナル抗体の作成を試みている. 3.pnd^+遺伝子の作用 休眠代謝の開始は卵殻に目づまりがおき, 呼吸が低下するためであるという説(目づまり説)がある. pndヘテロ卵を用いて, 休眠の開始前後で卵殻の酸素透過量を測定したところ, "目づまり説"には否定的な結果を得た.
|