研究概要 |
北海道から沖縄に分布するニホンジカ約1万例の形態計測値にもとづいて地理的変異の要因分析を行なった結果, 次のような暫定的結論を得た. 1.日本産ニホンジカの北(雄成獣120kg)から南(同30kg)にかけての差は非常に大きく, 中国産シカ類5〜6種に相当する潮流的変異がみられる. 2.このように変異が大きい理由は, 我が国に1種のシカしか生息せず, Interspecitic Segregationがないためである. 3.対馬産のものも含め, 日本産のシカはすべてCervus nippon1種に含められるが, 尾久島産のものは山岳適応と隔離による特殊化を示している. 4.同一の個体群においても, 高密度期と低密度期には, 体重で2倍に及ぶ差が生じている. 5.上記の地理的および密度の変化に伴う大型化・小型化は, いわゆる幼形化と老形化によってもたらされるものである. 6.本課題による研究を勧める過程で, ニホンジカの地理的変異に関する要因を最終的に結論づけるためには, さらに次のような資料を補足する必要のあることが判った. (1)発生変異(異時性)による幼・老形化の過程, すなわち亜樓および種分化の過程は, 2倍もの大きさの差を生じた洞爺湖中島個体群の資料を分析することによって詳しく知ることが出来る. (2)61・62年度の海外学術研究によって得られた中国産ルサジカ・ニホンジカ・クチジロジカ・アカシカの結果より, 種分化によって変化しやすい形質とそうでないものとを, シカ属の進化の舞台となった中国大陸産のシカ類の分析を通じてさらに明確にしておく必要がある. 本課題による成果はモノグラフとしてまとめる予定であったが, 上記の検討を行なったのちまとめたい.
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