研究概要 |
ブナ科は樹木性植物の中でも大きな科で, その温帯属は南半両半球の温帯林の標徴として系統的に重要である. 第三紀ブナ科化石の分類学的再検討による系統解析と各属の時代的〓長を明らかにすることを目的とした. とくに, 東アジアで化石の豊富なコナラ属・ブナ属については原標本を詳細に検討し, 化石に対する形質について現在植物の検討と併せて研究を進めた. 1.分類のための2形質として被子植物の脈系が有効であるためには, その形質が安定であることが必要である. ブナ(Fagus crenata)の葉標本を日本全土(154地点)から収集して検討し, 葉形指数・二次脈数・三次脈密度・網状脈の大きさ・脈端数などの特徴が, 生育地の気候条件に関係なく一定の性質を示すことを確かめた. 2.東アジアから報告された25種のブナ属の化石について, 葉の三次脈密度・細脈を検討し, 共産する穀斗・種子の形態的特徴と併せて8種に纏めた. 現生種のこれらの特徴と比較し, アメリカブナ型を祖先型としたブナ属が, 中新世中期にブナ型とイヌブナ型の2系統に分化したこと, さらに中新世末期には現生のブナ及びイヌブナが出現し始めたことを明らかにした. 3.コナラ属の約220現生種の葉脈系を検討して化石葉に適用しうる属の識別基準を確立し, とくにコナラ亜属では節の単位での識別を可能にした. この研究結果に基づいて東アジアにおける始新世〜中新世初期のコナラ亜属化石を再検討して12種に整理し, これらがCerris及びAlbae節に属すること, 及びそれらの系統分化の関係を明らかにした. しかし, カシ亜属の化石種の系統関係は今後の研究課題として残された. 4.ブナ科をForman(1966)の分類系に従って3亜科・8属に分け, 世界でこれまで報告された化石種について吟味し, 各属の出現時期を検討した. 3亜科への分化は暁新世〜始新世初期と考えられ, 始新世末〜漸新世にはほぼ現住属に同定しうる化石が認められる.
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