研究概要 |
大射サンゴ骨格の種内変異を鹿児島県喜界島の第四系湾層産のムシバサンゴ(Caryophytlia(Premocyathus)compressa Yabe and Egwchi)について, 1090個体を採集して検討した. その結果種属の分類形質の識別基準に関して, 旧来の考えと大きく異なる以下の知見を得た. 1.ムシバサンゴのサンゴ体の大きさは個体ごとに異なっている. その莢のサイズは隔壁数に比例して大きくなる. これに対してサンゴ体の高さは, 莢のサイズよりも大きい変異を示している. このことはサンゴ体の莢のサイズは遺伝的に制御され, 高さは遺伝的要因と共に環境的要因によっても支配されていることを表わしている. 2.隔壁の配列は, 本種において従来考えられていた10の倍数を基本とする個体のみならず6から14までの数を基本とする個体も含まれる. 2の2とは, 隔壁配列様式を単純に種や属の区別に使えないことを示している. 3.個体群の隔壁配列パターンには99の理論的変異が予想され, このうち57の変異分野外で観察された. もし採集個体数をもっと増やせば99の変異すべてを満たす値に近づくことが予想される. 4.第三次隔壁の数は個体ごとに多くの変異を示している. これまでは第三次隔壁が完全にそろったもののみが成体と考えられてきたが, 連続薄片で検討の結果, 第三次隔壁の挿入は遺伝的に決定されていることが明らかとなった. 5.第三次隔壁の挿入位置もランダムではなく遺伝的な要因に支配されている. つまり10の倍数を基本とする個体群では, IからVまでの部位で隔壁発達頻度に一定の傾向があり, 中心部のIの部位で最も欠けやすい. 6.パクの発達は第三次隔壁の挿入位置と密接に関連しており, パリが全く欠如する個体も存在する. したがってパリの有無は必ずしも単純に属種の識別に用いることはできない. 7.放射サンゴ類は一般に放射相称, 左右相称性をもつことが特徴とされているが, 本種の個体群中には相称性をもたない多くの個体が存在する.
|