研究概要 |
本研究は北陸地域新第三系の主要な貝類化石群について最新の微化石年代尺度から検討を加え, 貝類群の年代的位置づけとその組成を明らかにし, 群集の変遷を古生態学的・古動物地理的に検討することを目的とした. 北陸新第三系には未検討のものを含めて多くの貝類化石産地があるが, 今回はじめてその全体像と年代を明らかにしたのは中新世のもので, 御峰層の蔵原・法林寺化石層, 高窪層の安楽寺化石層, 音川層の音川動物群などである. 含貝類化石層の微化石, 特に珪藻化石の検討の結果, 北陸新第三系の貝類化石群は4層準に区分され, これらに含められる含化石層とそれぞれの年代幅は次のように明らかとなった. 1.初期中新世末期(16.5〜15.5Ma);黒瀬谷動物群(黒瀬谷層, 東印内層, 砂子坂層, 河南層, 宮島層など) 2.中期中新世初期(15.5〜14Ma);七尾動物群(七尾砂岩層, 錦城山砂岩層, 御峰層, 犀川層, 天狗山層など) 3.後期中新世(9Ma前後);音川動物群(音川, 高窪層など) 4.鮮新〜初期更新世(2〜1Ma);大桑動物群(大桑層, 十二町層, 頭川層, 杉野屋シルト岩, 中川砂岩, 三田層など). これらの貝類化石群を年代的にみると地層の欠除による14〜9Maの貝類群の欠落や8〜3Maの浅海性貝類群の欠除が明らかである. しかし, それぞれの動物群の組成は, 熱帯〜亜熱帯(16.5〜15.5Ma), 暖温帯(15.5〜14Ma), 温帯〜冷温帯(9Ma前後), 冷温帯・亜寒冷帯と暖温帯の混在(2〜1Ma)の海中気候を示唆している. 特に9Ma前後の貝類群は15Ma前後に起源をもった日本固有種によって構成され, これを2〜1Maの貝類群と比較すると, この古気候を亜寒帯であると考えるのは妥当でない. 北陸において現在の親潮亜寒冷海がはじめて現われるのは少なくとも鮮新世になってからである. このことは北日本で考察されている新生代の地史・環境変遷と調和的である.
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