研究概要 |
上部白亜系セノマニアン階より産するデスモセラス属アンモナイト類およびチューロニアン階より産するトラゴデスモセロイデス属アンモナイト類について, 北海道の小平地方および大夕張地方を中心として, 層序学的調査を行ないながら多数の標本を得た. これらの標本の正中断面または縦断面を作製し, 形態を決定する形質について相対成長解析を実施し, 個体群の概念に立脚し生物統計学的処理を経て, 各地でのクロノクラインを明らかにした. 地理的変異は大きくなく, 種の分布の主要域から試料を得ているので, これらのクラインが概ね形態進化の主要な特徴を示していると判断した. 以上のデータから, トラゴデスモセロイデス・サブコスタータスは, デスモセラス・ジャポニカムから, 殆んど表面装飾の変化を生じるだけで系統進化したと判断した. また, その種分化はセノマニアン・チューロニアン境界の限られた時間内に完了した. 種分化に至るまでのデスモセラス・ジャポニカムの形態進化はホメオスタシスを示し, 彷徨以上の変異は生じなかった. トラゴデスモセロイデス・サブコスタータスは, 従来1種と考えられていたが, 今回, チューロニアン中期に, 浅海生の個体群に種分化が生じ, 結局2種となったことを明らかにした. これは住み分けによる種分化と考えられる. 尚, トラゴデスモセロイデス属の2種も, その存続期間を通じて形態進化はホメオスタシスを示す. 以上により, 沖合性アンモナイト類は, 形態は長期にわたって安定で, 種分化は系統的種分化も地理的種分化も, 地質学的に瞬時であり, 地理的種分化は浅海域の個体群との間に生じたと結論される. 尚これらに加えて, セノマニアン階のイノセラムス類6種をあらたに記載し, 鞘形類1新科・新属・新種について, その大要を明らかにした.
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