研究概要 |
現代人の歯の大きさの地理的変異がどのようなものであり, それが食性とどのように関係しているのかを探るために, 本研究を企画した. 歯の大きさを代表する計測項目としては, 永久歯の歯冠近遠心径と歯冠頬舌径を選び, その世界各地の人類集団における平均値と標準偏差を主に文献調査によって収集した. 結果的に集め得たデータは, 男152集団, 女113集団についてのものである. これらのデータは, 東京大学大型計算機センターの大型計算機に一連のデータセットをして格納し, すでに一般ユーザーに公開している. 以上のデータを用いて, まずクラスター分析を行ない, 歯の大きさの地理的変異にどのようなパターンがあるのかを確認した. 結果として, 男女ともに, 異なるパターンをもったおおよそ5つの群を区別することができた. これらの群の構成集団を検討してみると, この分類結果は必ずしも系統関係のみを反映したものではなく, 多分に生活様式, 特に食性と関係していることを示唆する結果のように思われる. そこで, さらに歯冠径のデータと国別食品供給実量のデータを組み合わせて, 相互に生態学的相関があるか否かを検討した. その結果, かなりの歯の歯冠近遠心径がいも類と牛肉の供給実量と比較的高い正の相関をもち, また, 臼歯の頬舌径が小麦と羊肉の供給実量と比較的高い負の相関をもっているらしいことが発見された. これらの結果は今後さらに詳細に検討されねばならないが, 少なくとも歯の地理的変異の要因の1つとして, 食性が非常に重要な関わりを持っていることが客観的に示されたことは, 本研究の大きな成果である.
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