研究概要 |
低次元超伝導体TaSe3に北大型バンディグラフ加速器を用いてプロトン照射を行い, 超伝導性及び常伝導状態の輸送現象の照射効果を研究した. 以下の研究成果が得られた. 1.TaSe_3の超伝導遷移温度T_cは照射によって急激に降下(1.2K以下)した. この原因を探究するために, 超伝導遷移の異方性及び低温比熱の測定がなされた. その結果, 超伝導遷移はチェン軸に平行方向では抵抗ゼロとなったが, 垂直方向では抵抗減少は小さく有限抵抗が残留した. 即ち, 異方的超伝導遷移を示した. 又, Tcでの比熱異常はとびではなく, ブロードになりバルク超伝導とは異なるふるまいを示した. これらの実験結果より, TaSe_3の超伝導はフィラメンタリーであると結論された. 2.高濃度に照射されたTaSe_3の電気抵抗と磁気抵抗の測定から以下のことがわかった. (1)金属-非金属転移(抵抗極小)が観測され, 非金属領域での抵抗はInT型を示すこと, (2)照射量の増加に共なって, 低次元特有の温度変化が表われる領域が減少し, InT型の領域が増加すること. (3)照射試料の磁気抵抗は異常で, 磁場の2乗則からずれ低磁場で急激に増加すること. (4)磁気抵抗の異方性は照射試料では小さいこと, これらの実験結果より, 「照射されたTaSe_3では原子配列に不規則な構造が生じている」とするモデルが提案された. このモデルにもとづいて, 照射試料で異方性が小さいのは原子配列の不規則性により電子構造がぼけるため, 又, InT型の電気抵抗の出現は伝導電子を介在して原子がトンネル効果により1つの位置から別の位置へ移動でき, 近藤効果と同様な原理で説明できると, 結論された. 今後, 低次元電子系をもつ超伝導物質(最近発見された高温酸化物超伝導体など)に照射して, 耐粒子線照射材料の開発に関する体系的研究を進める予定である.
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