研究概要 |
有機分子性固体薄膜の伝導帯構造研究に適した低エネルギー電子透過装置を完成した. 本装置では, 入射電子密度として一般的な電子衝撃分光法の場合に比較し1/1000以下で測定を行なうことができるため, 測定試料に対する電子照射損傷の影響が少なく, 同一試料に対し, スペットルの温度変化の追跡など, 長時間の繰り返し測定を行なうことが可能である. 本装置を用い, 垂直分子配向膜を形成する上で最も重要な役割を果たす一次元鎖であるアルキル鎖に着目し, 長鎖アルカン, ポリエチレンの分子結晶薄膜及びそれらの溶融アモルファス薄膜の伝導帯構造を研究した. その結果, これら化合物の結晶では伝導帯底が真空準位より0.5eV上に位置しているという重要な結論を得た. 又, 種々のビニル高分子の主鎖のモデルとも考えられる溶融アモルファス状態では伝導帯に顕著な構造はなく, 伝導帯底は真空準位の下に移行していることがわかり, 結晶状態の結果と比べると0.5eV以上のしみ出しが生じていることがわかった. これらの結晶薄膜に低エネルギー電子透過法を用いることにより, バンドギャップ中に真空中からエネルギー, 強度共に規定されたホット電子を直接注入でき, その注入効率やギャップを通しての電子輸送に関し従来得ることが困難であったような新しい知見を得うることが判明した. 一方, 電子写真感光体に使用される高分子半導体に着目し, より基本的なビニル高分子ポリスケレン, ポリ2ビニルピリジンと高分子半導体であるポリ2ビニルナフタレン, ポリビニルカルバゾールの電子親和力を統一した方法論により決定した. その結果, それぞれの高分子の電子親和力として, 0.4eV, 0.3eV, 0.6eV, 1.8eVが得られた. 最後に, アラキン酸CdLB膜に対する実験結果から, 本実験法により超薄膜内における分子の垂直配向性に関する情報を得ることができるという可能性を得た.
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