研究概要 |
ポリプロピレン(PP)負帯電試料からのTSCスペクトルには室温以上の温度領域で三つのブロードなバンド【P_1】,【P_2】,【P_3】と融点近くに鋭いピーク【P_4】をもつ。蒸発潜熱の大きなAlを電極として蒸着した試料では【P_3】強度が著しく増す。この【P_3】のふるまいをPPの微細構造と関連させて検討するため、試料を延伸させ、TSCスペクトルと、今回の科研費で購入した示差走査熱量計によるDSCスペクトルを測定し、それらを比較検討した。その結果、TSCの【P_3】バンド及びDSCの結晶融解バンドはいずれも試料フィルムの延伸率の増加にともない、それらの低温側部分が削取られるように鋭くなっていつた。延伸によって、結晶不完全性の大きなラメラからアンホールディングが起こることを考慮すると、TSC,DSC両スペクトルの上記のふるまいは【P_3】バンドがPP結晶内の欠陥によるものであることを示す。また、DSCスペクトルがPPの融解によることも確認された。一方、球晶化によりフィブリル構造を見やすくした試料で、Al等の蒸着による球晶構造の乱れを偏光顕微鏡で観測しようとしたが、乱れは観察されなかった。また、AL蒸着の有無はDSCスペクトルの融解バンドには影響しなかった。しかし、前述のようにDSCの結果より、【P_3】バンドはPPの結晶領域の欠陥に関係していることは明らかであるから、結局、高分子へのAl等の蒸着は顕微鏡観察で確認できるほどの構造変化は引き起こさないが、その結晶領域に電荷トラップとなる欠陥を誘起することが確認された。また、球晶化試料では帯電飽和現象が観察され、この原因は電荷トラップサイトの、球晶化による減少であることも明らかにされた。熱的に安定なエレクトレットを作るための最適条件もPP及びポリエチレンに対し見出された。これらの成果の一部は61年秋の応物学会及び静電気学会で報告した。今後は、蒸着以外に、スパッター等での電極付着の効果も調べる予定である。
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