研究概要 |
半導体ならびに金属上のアルカリ原子の吸着現象に関して, その電子状態仕事関数等の被覆度による変化の特徴と本質を明らかにすることを目的に研究を進めている. モデルとしては, 単原子吸着の解析において簡単なモデルとして成功を収めたNewns モデルに高被覆度領域で重要となる吸着原子間の電子遷移の項を取り入れたものを採用した. この系を原子一空孔の不規則系として原子の位置相関を正しく考慮できる方法, 具体的にはクラスター型のコヒーレントポテンシャル近似(CPA)を用いて定式化を行った. 61年度までの我々の成果に基づき, W.Butlerの方法をこの系に適用し, 具体的な数値計算を行った. (研究発表1)結果は実験事実の特徴のいくつかを定性的に説明しているが, この近似法では, 電子遷移が最近接吸着子間の場合のみに適用性が限られており, 今問題にしている系では, 間接的相互作用のため遠距離原子間の電子遷移も存在しており, この効果は, エネルギー領域によっては無視できないことが分った. この点を改良するために, コヒーレントポテンシャルをマトリックスとして扱うcell-CPAの方法を適用し, 定式化ならびに数値計算をやり直した. 対象としている物質は, Si(001)2×1上のアルカリ原子であるが, この系について実験的に観測されている仕事関数の特徴的な被覆度依存性ならびに被覆度が60%前後で起きる非金属転移が統一的に説明された. この成果は単にこの特定の物質の説明にとどまらず, 吸着系の電子状態の被覆度依存性を計算する一般的な方法を確立したものと考えている. この結果については, 科研費重点領域研究「表面新物質相」の理論グリープの研究会で, 62年9月, 63年1月, 3月の3回にわたって発表している. また春の物理学会でも発表予定である. この成果はPhys.Rev.Bに現在投稿中である.
|