研究概要 |
有機物質を素材とした素子開発を目的として, 水素結合を含む電荷移動錯体における中性-イオン性相転移現象に着目し, それに関連した新しい機能性の追求とその実用化への可能性の追求を試みた. この相転移現象を詳しく調べた結果, 以下のようなことが明らかとなった. 1.負性抵抗に由来する電気的スイッチング現象が生じる. 2.光照射によるスピンの生成. 3.光照射による負性抵抗の出現. 以上の現象は電子の集団的な運動に起因するが, この種の電荷移動錯体を応用した素子化への可能性を開くものとして大いに注目される. また, この電子の集団運動が分子間のプロトン移動と連動して次のような特異な性質を導き出すことが明らかとなった. 1.水素結合におけるプロトンのトンネル効果の増大. 2.電子とプロトン移動が競合した新しい相転移の出現. 3.相転移に伴う急激な色変化と振動スペクトルの不連続的挙動. このような現象は, 分子間の水素結合が量子的に融解していることを意味し, プロトンのトンネル効果が系の性質に重要な役割を果たしていることを示している. この考えに基づき, 光学スペクトルを詳細に解析した結果, 今までにない新たな素励概念が導き出された. "プロトニック ソリトン"がそれである. この概念を基盤として, 水素結合を有する種々錯体を合成し単結晶化に成功した. これらの物質はこれまでにない特異な電子及び振動スペクトルを示し, 中にはかなりの電導性をもつ錯体が見出された. さらに化学的改良を加えることによって, プロトン移動を利用した新しい電導機構にもとずく新しい有機金属や超伝導体の出現への可能性が広けるものと考えられる.
|