研究概要 |
本研究では高分解能電子顕微鏡に関して, 能動的な焦点はずれ量変調を用いた新しい球面収差補正技術が提案されている. 研究の主目的は, この新しい収差補正技術の詳細な理論解析を行うとともに, 高分解能電子顕微鏡へ適用の可能性があるか否かを調べる事である. 理論面について本研究ではまず能動的焦点変調と正弦波状荷重付けされた画像積分を利用した単純帯域フィルターを提案するとともに, コヒーレント照明された光学顕微鏡を利用した予備実験結果を示した. 次にこのアプローチをコヒーレント光学系での球面収差補正に拡張した. コヒーレント光学系での球面収差に対して補正処理に必要な, 焦点移動に同期してかける荷重関数は先と同様に解析的な表現が可能である. また以上の球面収差補正に対する光学顕微鏡でのシミュレーション実験を, 球面収差可変の対物レンズを用いて実現した. 処理後の画像は, 処理前で最も良いとされる「シェルツァー」焦点位置の像と比較してさらに良好である事が示された. 今回の理論研究の最終段階では, この焦点はずれ量変調処理の概念を3次元処理に発展させた. 解析の示す所では, 従来問題とされていた強い散乱体による非線形結像効果を, 焦点はずれ量と対象物位置の変調を用いた「能動型3次元コンボルバー」によって除去する事が可能である. 電子顕微鏡での実験面においては, 当初高速焦点はずれ量変調を目的に, ミニ静電レンズを試作したが, 工作精度不足から, 焦点変化にともなう像の移動が大きく使用を断念している. このため電子顕微鏡での原理検証実験としては, 単純帯域フィルターの実験のみにとどめた. この実験より, 残留する像の移動効果を考慮する事で帯域フィルターが実現できる事を確認した. 光学系の調整により像の移動をおさえる事で, 高分能電子顕微鏡における球面収差補正が可能と考えられる.
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