研究概要 |
環境疲労破壊靱性の概念は, 昭和59年度科学研究費補助金によって行われた研究"海洋構造物の安全設計に関する基礎的研究"(研究代表者;沢木洋三, 課題番号58460080)にて提案されたものである. この環境疲労破壊靱性は, 海水等の腐食環境のみならず, 低温環境においても重要なパラメータであることが本研究によって明らかにされた. この値は疲労き裂伝播挙動を支配するものであって, 例えば, 本研究で提案された疲労特性応力拡大係数KeおよびKvと密接に関係している. これら疲労特性応力拡大係数および疲労破壊靱性との関係が解明されたのでこれを利用したき裂伝播速度式の推定法が提案された. 低温環境下においては, 特に下限界近傍でのき裂伝播を実験的に求めることは, 容易なことではない. 本研究によって提案された方法によれは, 比較的短時間のもとで得られるデータのみから, 下限界値にいたるまでのき裂伝播速度が推定されることになり, 信頼性の高い設計応力選定のために有効な手段となりうることが期待される. また, 疲労特性応力拡大係数Kvは, き裂伝播の第2領域と第3領域との境界を規定する応力拡大係数であって, 疲労き裂進展に静的割れの影響が現れ始めるときの値であることが明らかにされた. 一方, 第1領域と第2領域との境界を規定する疲労特性応力拡大係数Keはき裂先端の繰り返し塑性域寸法が材料の結晶粒径に等しくなるときに応力拡大係数に対応している. 従って, Keおよび下限界応力拡大係数Kthともにσy√<d>に比例する(σyは材料の静的降伏応力で, dは結晶粒径である)ことが明らかにされた. 脆性材料での疲労き裂伝播曲線は, 静的荷重下でのそれと本質的に同一である. これは, この材料のKvの値が小さく, き裂伝播のほとんどが第3領域となるためである.
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