研究概要 |
本研究は, 高温装置の実環境下にある金属材料の熱ふく射性質を系統的に把握することを目的とし, 明確な実験的基礎をもって, 熱ふく射をスペクトルの過度現象としてとらえる点を特色とする. 第1に, 本研究の主要な実験装置である高速スペクトル計測装置の開発を進め, 波長0.35-10μmの近紫外〜赤外スペクトルを0.93秒ごとに繰返し計測できるようにした. これを用いて高温酸化過程にある金属の反射スペクトルの過渡挙動を調べた. その結果, 光学鏡面が酸化される際の鏡面反射スペクトルのみならず, あらい表面の酸化過程の拡散反射スペクトルにも, 明瞭なふ射の干渉・回折現象が現れることが見出された. これらの現象は再現性よく規則的であり. 実在面のふく射性質の理論化の可能性が示唆しれた. そこで, 実験のスペクトルを解析し, 実在表面の性質を系統的に記述するための電磁光学的モデルの開発に進んだ. すなわち第2に, ふく射性質の理論化の単位として, 薄膜要素における干渉・回折を検討した. 2つの吸収性媒質界面における電磁波の反射・屈折現象の一般表現を導き, 3次元非平行薄膜系における多重反射・干渉特性を定式化した. これを基礎として薄膜要素モデルを提案し, 薄膜干渉とKirchhoff干渉・回折の複合現象を記述した. 数値計算を行い, この要素が実在表面の散乱・吸収性質を特徴づけることを示した. 第3に, 実在表面のあらさを記述するために, 大きさと高さが確率分散する離散要素が2次元的相関をもって並ぶ多段(superimposed), 多分散型の3次元モデルを提案し, これを上記の薄膜要素モデルと結合した. 実在の複雑にあらい表面, その酸化表面などにおける干渉・回折特性を記述し, 数値計算を行って, 本モデルが, あらい表面の反射の角度・波長特性, あらい酸化表面の拡散反射スペクトルにおける干渉現象などの, 実験の反射性質の主要な特徴を説明することを示した.
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