研究概要 |
放電現象は, 空間に存在する偶存電子もしくは陰極からの放出電子が, 電界からエネルギーを得て, 気体分子との衝突によって新たな電子を生みだすことによって開始する現象である. この現象は, きっかけとなる初期電子の発生が, 放電雰囲気や陰極表面状態に大きく左右されるため, 一般には再現性の悪い現象として知られている. 従って, 放電の発生・進展機構を考える場合, 初期電子となる陰極放出電子の発生機構を知ることが非常に重要となる. 本研究では, 陰極からの放出電子量を二次電子増倍管の一種であるマイクロチャンネルプレート(MCP)により測定し, 陰極放出電子の気体中放電における役割について検討することを目的とした. まず, MCPを用いた陰極放出電子の測定と従来の電流計による測定との大きな違いは, 電流計では困難であった10^<-19>〜10^<-13>A領域の電子放出量の測定がMCPの採用により可能となったことである. これにより, 陰極放出電子数個程度から計測ができることになる. そこで, 電極材料や電極表面状態の異なる陰極からの電子放出を10^<-13>A以下の電流領域で測定した. その結果陰極からの電子放出は, 電極材料や表面状態によらず電界放出によることが明らかとなった. また, これら陰極からの電子放出は, 電極表面の微小突起に左右されることなど放電機構解明上有益な情報が得られた. さらに, 陰極放出電子の放電開始に及ぼす影響について考察した結果, 電子放出の発生の難易が気中破壊電圧の大小を決定していると考えられた. これらの結果から, 放電現象の不整についても, 電極ごとの電子放出性を正しく把握することによって取り除くことが可能になると考えられ, 今後の放電研究に大きな示唆を与えてくれるものと思われる.
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