研究概要 |
本研究は, 複数種類の物質を非常に薄く多層に堆積させた組成変調構造を利用して, 所望の特性を持つ圧電材料を合成し, これを弾性波デバイス用基板へ応用することを目的とした. 先ず, 組成変調構造の弾性的・圧電的性質について理論的に詳しく検討し, 各層が十分薄い場合の系のマクロ的な材料定数を求める手法を開発した. この手法を用いて, セラミックとエポキシから構成される組成変調構造振動子について解析し, 実験結果との比較からその有効性を確認した. この手法を利用してAlN/ZnOなどの互いに温度係数が異なる材料の組合せによる特性の変化を調べた. その結果, 系のマクロな特性が膜厚比によって連続的に変化し, 適当な膜厚比で零温度係数と比較的大きな電気機械結合係数が同時に得られることが判った. 次に, 波動の分散特性を有限要素法により検討した. その結果, 構造の周期が波長の約1/5程度以下であれば, 構造全体が均一の材料と見なせることが判った. また, 構造の周期と弾性波の波長が同程度となると, 高次モードが現れる. この組成変調構造を他の基板材料と組み合わせた場合, 高次モードがカットオフの場合でもその近傍場が影響を及ぼし, 組成変調構造と基板材料との境界に波動のエネルギーが閉じ込められることが判った. これと並行してZnO/AlN組成変調構造の作製を試みた. 先ず, AlN薄膜作製条件の最適化を行い, 次に基礎実験としてGaAs基板上に別々のチャンバで比較的厚いAlNとZnOを作製し, 二層薄膜構造を試作したところ, 二種類の材料を組み合わせることにより, ZnOやAlN薄膜単体を用いた場合に比べて大きな圧電性が得られることを実験的にも確認した. 現段階では結晶性の優れた数百nm以下のAlNやZnO薄膜が均一に形成されず, 組成変調構造実現への大きな障害となっている. 現在, スパッタ条件を再検討し, 多層の組成変調構造の作製を試みている.
|