研究概要 |
本研究の目的は細胞運動に対する工学的アプローチの試みである. 細胞運動はおよそ生体の運動の機構の最も基礎的なものであるが, その機構については理解とはほど遠い状態にある. 本研究では磁気計測によって運動の大きさを知る方法, および画像処理により生きた細胞内の立体的な構造を調べるという方法によって, その機構を知るための緒が得れた. 細胞としてはハムスターの肺胞マクロファージを用いた. これらの細胞は貧食作用により, 与えた磁性粒子を取り込む. これら細胞の集団に0.3T程度の磁界を加えると, 磁性粒子の磁化により, 細胞集団は弱い残留磁界を発生する. この残留磁界は時間とともに減衰する(緩和). これは磁性粒子を囲む食胞という小器官が細胞内の運動とともに方向を変え, 結果的に粒子のモーメントの方向が不規則になってゆくためである. 従って緩和の測定により, 運動のエネルギーの大きさや, 細胞内の物理的な性質について情報が得られると推測される. 我々はそれを確かめるため, 様々な方法で磁気計測を行い, 予想どおり他の方法では得られていないような定量的な結果を得ている. 従ってこの方法は細胞運動に対するアプローチとして有効ではないかという結論を得た. 顕微鏡画像処理は, 磁性粒子の細胞内での立体的な配置に関する詳しい情報を得て, 磁気測定の助けにするという目的で始められ, その面でもある程度の成果を得つつある. しかしながら, 顕微鏡画像処理, 特に3次元的な処理に関しては, 顕微鏡そのものの特性を取り入れた処理方法を用いることが本質的に重要であることが分ってきた. 従ってこれに関しては, 当初考えていた範囲を大きく越えつつあり, 細胞運動に限らず, 生体の顕微鏡観察像について逆問題を解くことにより, 顕微鏡の立体的な分解能の限界まで十分に使った推定像を得るため, 研究をさらに進めてゆきたいと考えている.
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