研究概要 |
これまでに日本の各地に分布する歴史的な街並みの景観の調査を200か所余りにわたって展開してきたが、そこに得られたデータに基づいてそれぞれの街並みの魅力がどこから生じているかを解読することが研究の目的である。そのためには建築的要素とその配列,樹木,あたりの地形,あるいはそれらの色彩,テクスチュア,スケールなどの多層にわたる景観の構造をとらえ、その意味や様相を明らかにしていく必要があった。そこで、すでに記号論的な視点から作成していた街並みの景観のコードに従って、(1)景観の特質をよく示すファサードの画像データベースと、(2)その構造を解読するための知識ベースを作製し、(3)それらを利用して街並みの景観の解読を行うコンピュータによる対話システムのプロトタイプの構築をすすめた。具体的には、人工知能(とくに知識工学)の領域で注目されている知識表現(フレームやプロダクション・ルール)と推論の方法を援用し、汎用機(FACOM M-380Q)上にUTILISP言語(さらにエクスパート・シェル ESHELL)によって実現した。また、(1)形態分析と、(2)意味の解読を重ね合せるために、新たに導入したパーソナル・コンピュータMacintosh Plusにおけるマルチ・ウィンドウ機能を活用した対話システムをExper Lisp言語によって構成することができた(Exper Lispはグラフィック用の関数を含む)。 以上のような知識工学的なアプローチによって、様々な記号(屋根や格子といった建築的要素も何らかの意味を表す記号として捉えられる)のネットワークとしての街並みの景観に潜むルールが、具体的に記述されるようになったと考えられる(たとえば、スカイラインのような境界線の形の魅力,類似と差異の織りなす景観の様相,街の歴史・産業・風土を写し出す建物のファサードの表情など、21世紀に向けて新しい街づくりを展開していくためのルールがいくつも発見される)。
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