研究概要 |
近年, 接客と家族生活の重なりの問題等を契機として, リビングルーム(L)への批判的論議が盛んに行われて来た. その多くは接客や家事機能の分離によって問題の解決を計ろうとしているが, それだけでは一面的であろう. 我国の居間=Lの源流であるLiving roomが多目的空間として生まれた経緯や個室の普遍化がコミュニケーション空間としての公的領域の形成を促すことに目を向けるなら, 多様な行為の場としての居間を考えることも必要である. 本研究はこのような視点から多目的空間としての居間のあり方を探るものである. 今日の我国の都市住居の居間≒Lは, 一般的に多目的性への配慮は希薄であるが, そうしたLにあっても生活の実態としては多目的性を持っている. しかしそれは謂わば多目的性への指向であり, 現状のLが多目的空間として機能しているということではない. 特に問題なのはその規模とそこに現れる多様なモノへの対応の仕方である. 結論的にいえば, 多目的空間としての居間の基本的要件はその規模にある. Lでの行為の多様性はその規模が大きくなれば増大し, 特に家事・休息・子供の遊び等, 広い床面を必要とする行為や勉強・仕事等机類を必要とする行為で規模による差異が著しい. Lの家具配置を調べると多くの家庭でソファを持ちながらも, 一方で空いた床面やユカ坐スペースの確保に努めているが, これは上述の諸行為の場をつくり出そうとする努力と解される. 又, Lに現れるモノに対しては公室ゾーンに配された収納空間, 或いはLに収納家具を置ける余裕を持たせることが有効である. そうすればLは整理され易く, 接客等への利用もよりスムースになると思われる. しかし, 上述したようにLの多目的性にとってはその規模が最も重要であり, それは最低限, イス坐スペースとユカ坐スペースとが無理なく併存できる広さが必要であろう.
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