研究概要 |
異種材料を接合した二層薄膜を高エネルギー電子で照射すると、電子と原子の衝突で起る原子変位および照射誘起拡散によりその界面で二層膜を構成する原子が強制的に混合される。本研究課題では、この方法を利用した材料合成技術を開発するための基礎的事項を調べた。 種々の組合せの二層薄膜を超高圧電顕内で30〜60分間照射し(電子エネルギー;2.0〜2.5MeV、電子線強度;〜【10^(24)】e/【m^2】s)混合層を作成した。照射温度は163K〜473Kまで変化させた。実験に用いた二層膜は金属(Mとして(o,Ni,Mo,Pd,Ag,Pt,Au)-Siと金属(MとしてPt,Au)-Alに大別される。 M-Si二層膜を照射すると一般的には平衝相のシリサイド(単結晶又は多結晶)が混合層に出現する。この実験で生成された混合層は、1.大部分のシリサイドはMsiでイオンビームによる原子混合や焼鈍で生成されるM2Siとは異なる。2.本晶合金のAg-Si、Au-Si二層膜は低温における照射で非晶質合金が形成された。その濃度は照射温度で変る。3.Pt-Si二層膜では照射温度によりPtSi(373K)、非晶質(室温以下)が形成される。などの特徴をもつ。M-M二層膜で生成された混合層にも単一(Pt-Al)や多数(Au-Al)の平衝相または非晶質相(低温で照射したPt-Al)が出現した。 これらの結果から、電子線照射下で得られる原子混合は非平衝状態で混合されているので非平衝相新材料合成に対し有望な方法であることが判った。更に、Au-Al二層膜をAu側からとAl側から照射した場合で生成される混合層が異なる結果から、その混合過程は原子変位が支配的因子であることも判明した。その結果、多層膜を照射して過飽和固溶体や非化学量論的化合物を合成する場合には構成膜の厚さを電子と原子の衝突断面積を考慮して調整する必要があるという重要な指針が得られた。
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