研究概要 |
1.炭素数6〜12の直鎖アルキルヒドロキサム酸(AHA),2-エチルヘキシルヒドロキサム酸(EHHA),炭素数3〜11の直鎖アルキル-N-フェニルヒドロキサム酸(PHA)を合成し、四塩化炭素〜水間における試薬を金属キレートの分配平衡を調べた。 2.AHAのネルンスト分配定数(【K_D】)の対数値はアルキル鎖の炭素数に比例し、メチレン基1個当り、log【K_D】の値は0.6〜0.7となった。これは正則溶液論からの予想と一致する。EHHAの【K_D】は炭素数6のAHAのそれよりも大きく、分岐アルキル鎖の導入は【K_D】の向上に有用であった。一方AHAの酸解離定数の値(pKa)は炭素数の増加と共に大きくなったが、PHAのpKaはアルキル鎖長に依存しなかった。EHAキレートは有機溶媒にも難溶なため、EHAは抽出剤として用いられないが、PHAは鎖の長いものほど酸性域からの抽出が可能という新しい性質をもつ。 3.ヘキシロ-及びオクチロ-PHAによる二価金属イオンの抽出では、銅,コバルト,鉛について1:2錯体,ニッケルと亜鉛では中性PHAを含む1:3錯体が抽出された。PHAは特に銅に対し高選択性を示した。金属イオンの抽出定数(Kex)の対数値は、試薬自身の場合と違い正則溶液論からの予期に反し、【C_8】以上のアルキル鎖につき、炭素数の影響は認められない。PHAはガリウム,インジウム,希土類元素など多くの三価金属イオンの抽出にも有効なことが認められた。 4.PHAは強酸性から強アルカリ性に至る広い領域で化学的に安定で、かつ多くの金属イオンを抽出でき、工業抽出剤として望ましい性質を有する。分岐アルキル鎖をもつAHAの合成、特に再結晶がむずかしく、本研究では、EHHAの検討に留ったが、引続いてそれらの合成,精製法を検討中である。
|