研究概要 |
標記課題について, 昭和61〜62年度にわたり研究し, 以下の成果を得た. 1.当初意図した薄膜の厚さ方向に単一粒界をもつ試料の作製は, 装置上の制約と対象としたイオン導電体の性質から極めて困難であることが判明した. したがって, 薄膜の電気的性質を詳細に検討することにより, 新しい知見を集積し, その結果を系統的に解析することに重点をおいて研究を進めた. 2.イオン導電体としては, 当研究室において研究実績のあるNasiconと水酸アパタイトを対象としたが, 製法の容易さ, 組成制御のし易さ, 高純度で微粒子が得られる点等を勘案して, 水酸アパタイトに重点をおいて実験を行った. 3.水酸アパタイトは, 中高温においてプロトン又は水酸イオンが電荷担体となるイオン導電性を示すが, 室温付近では表面伝導に基づくプロトンイオン導電性を示すことが, 直流・交流電気伝導度測定, 昇温脱離法による水の分析及びSEMによる組織観察を総合的に検討することにより確かめられた. 4.試料の表面を湿式或いは乾式法により化学的に処理することにより, 表面伝導度を大きく変化させ得ることがわかった. これは表面水酸基と物理収着した水の量が変化するためであることが明らかにされた. 5.400°C程度の温度領域においては, 水酸アパタイトの表面伝導度は空気中の水分とともに炭酸ガスの濃度にも依存することが確認された. 種々の条件で処理した試料表面をXPSを用いて系統的に分析した結果, この電気伝導度の変化は, 表面水酸基又は表面近傍の結晶内部の水酸基が可逆的に炭酸ガスと置換し, そのことにより表面伝導度が大きく影響されることによると推定された.
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