研究概要 |
優れた電子伝達機能を有するアルキルビオローゲン及びその誘導体と先に本研究者らが開発した脂溶性有機アニオン種, テトラキス[3.5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸イオン(TFPB)とを組み合わせて, 疎水性安定イオン対を形成させ, 疎水性有機溶媒中に可溶化して, 電子伝達及び水素輸送を行う触媒系の分子設計を行い, これらの電子移動及び水素移動反応の特徴を明らかにした. 以下に主な成果を述べる. (1)ビオローゲン類似構造を有する水素輸送体として, 1-ブチルー4-(4-ピリジル)ピリジニウム(I), 1.3-ビス[4-(4-ピリジル)ピリジニオ]プロパン(II), 及び1.8-ビス[4-(4-ピリジル)ピリジニオメチル]ナフタレン(III)を合成した. (2)(I), (II), (III)の酸化還元電位を1<pH<11の範囲でサイクリックボルタンメトリー法により測定し, 共役酸のプロトン解離定数との関係を考察した. (3)水・有機溶媒二相系におけるビピリジン誘導体-TFPBイオン対の抽出挙動を調べ, 抽出されたイオン対の組成及び抽出分配に対するTFPBの効果を考察した. (4)ビピリジン誘導体の電子スペクトルから水相及び有機溶媒相におけるカチオンラジカル種の溶存状態を調べ, 電荷移動会合に対するTFPBの立体効果を考察した. (5)ビピリジン誘導体, (I), (II), (III)を酸性条件下に亜鉛で還元して, それぞれのラジカルカチオン試剤を生成する方法及び反応条件を確立した. (6)非プロトン性溶媒中におけるエンジオンへの水素移動反応及びジブロモ体への電子移動反応の効率から, 電子移動とプロトン移動との同時進行がオレフィン水素化に重要であり, またラジカルカチオン種の基質選択的な還元反応機構を考察し, 基質選択的水素化触媒反応を例証してその有用性を示した.
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