研究概要 |
生体内でアミノ酸の代謝に関与する補酵素ピリドキサールの機能を非酵素系で再現し、アミノ酸の合成に高い活性を示す触媒系を開発するのが本研究の目的である。我々は最近酵素反応機構の考察に基づいて、一般酸塩基触媒作用を取り入れた新しいピリドキサールモデル系を開発した。この系は1位に長鎖ドデシル基をピリドキサールとカチオン性界面活性剤CTAcl(ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド)とから成る。この触媒はアミノ酸の諸反応に対して期待通りに高い触媒活性を示すことを見出した。従来のピリドキサールモデルの触媒作用には金属イオンの添加が殆んど不可欠であったが、本系では金属イオンを必要とせず、しかも30゜C,pH8という穏やかな条件下にアミノ酸のアミノ基転移反応やβ-脱離反応を起すことができる。これらの触媒反応を種々の角度から検討することによって高い触媒活性が生じる原因を明らかにすると共に、この系をアミノ酸の合成に応用することを試みた。アミノ酸のβ-脱離反応はアミノアクリル酸を経由して進行するので、この中間体に適当な求核試薬を付加させることができればアミノ酸を合成できることになる。そこで、基質としてS-ベンジルシステイン,求核試薬としてフェノールを用いて反応を行ったところ、原料とは異なるアミノ酸が得られた。この化合物は予想生成物のチロシンではないことから、3-フェノキシアラニンと考えられる。興味深いのは、小過剰のフェノールを加えるだけで、β-脱離反応生成物のピルビン酸は全く生成せず、定量的に3-フェノキシアラニンが得られることである。これまでに知られていた3-フェノキシアラニンの合成法はかなり面倒で収率も低かったので、本研究で開発した方法によってこのアミノ酸の合成法は大幅に改善されたことになる。今後は求核試薬の種類を変えて反応を行い、側鎖の異なる新規アミノ酸を多数合成する予定である。
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