研究概要 |
有機不斉反応のなかでアミノ酸エステルの不斉加水分解に焦点を合わせ, 種々の興味ある速度論的結果および反応種のコンホメーションに関する知見が得られた. 反応場マトリクスとしてはベシクル分子(カチオン性およびアニオン性)とミセル分子(カチオン性およびアニオン性)の単独系あるいは混合系とし, L-ヒスチジン(His)を官能基とするペプチド触媒を共存させることにより機能性分子集合体を構築した. エナンチオマー基質として, フェニルアラニン(Phe), ロイシン(Leu), トリプトファン(Trp)などのアミノ酸残基を含むp-ニトロフェニルエステルを用いた. 次に特記に値する事柄についてまとめてみると, 1.ペプチド触媒のうち, ベンジルオキシカルボニルーL-フェニルアラニルーL-ヒスチジルーL-ロイシン(Z-L-Phe-L-His-L-Leu)がN-ドデカノイルーD(L)-フェニルアラニン=p-ニトロフェニルエステル(D(L)-S_<12>)の鏡像異性体速度比(L/D)を特異的に顕著に大きくすることが種々の分子集合体反応場で共通に観測された. 2.動的平衡にあるやわらかなミセル反応場を用いても立体識別に有利な触媒-基質の配向性をコントロールする事を可能にした. 3.円偏光二色性(CD)スペクトル特性から, 高活性トリペプチド(Z-L-Phe-L-His-L-Leu)が特異的基質(L-S_<12>)と空間的に適合するコンホメーションをとり得ること, さらに反応場である分子集合体の組成比をコントロールすることによりそのコンホメーションが変化し, サイズの大きなハイブリッド分子集合体(ベシクル分子とミセル分子の混合体)で最大の立体識別反応を発現することに成功した. また4.ベシクル分子から構成される人工複合脂質膜に不飽和脂肪酸を添加すると, 膜の特性(相転移現象や流動性)を調節し, 不飽和脂肪酸の種類により不斉加水分解を抑制したり促進したりすることを明確にした.
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