研究概要 |
本研究は, 異相系液-液反応の総括反応速度におよぼすミセル触媒の効果を反応工学的に解析する方法を確立することを目的としたものである. 反応系としては, 工業的に重要で, しかもその総括反応速度が水相の物質移動抵抗の影響を受ける硫酸ヒドロキシルアミン水溶液によるシクロドデカノンのオキシム化反応を選び, 界面活性剤ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)のミセルの非存在下および存在下で実験を行った. 総括反応速度は, 種々の温度および液組成の条件下で平面接触攪拌槽を用いて測定された. ミセル触媒効果の定量的評価を与える理論モデルは, 水溶液中のミセル相とバルク相(ミセル外相)での反応, およびこの両相間の反応成分の分配平衡を考慮して導かれた. 実験結果の解析に必要な物性は, 直接測定するか, あるいは本研究で作成した相関式から推算された. SDSミセル存在下でのシクロドデカノンの水中拡散係数の実測値は, 既往の推算式による計算値とよく一致し, ミセルの存在による特異な影響は認められなかった. また, 本研究者が以前に提出した界面活性剤を含まない液に対する平面接触攪拌槽の物質移動係数の相関式は, SDSが存在しないとした当該溶液の仮想的な界面張力を用いることによって, SDS水溶液に対する推算式としても使用できることがわかった. 総括反応速度の実測値は, ミセル相とバルク相の両相での反応に対する反応動力学パラメーターを適当に選ぶことによってモデル解と良好に一致させることができ, モデルおよび解析方法の妥当性が確かめられた. なお, これら両相の反応は, ともにシクロドデカノン, ヒドロキシルアミン, および酸に関して1次であり, その反応動力学パラメーターを温度と溶液のイオン強度の関数として相関することができた.
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