研究概要 |
1.西欧中世石造建築の設計法の解明 設計法は職業秘密であったので, その内容は今もって謎である. 筆者は, 西欧石造建築の源流である古代ローマ建築の代表的遺構であるパンテオンの幾何学的解析を行ない, その結果, 双正方形双円形接合図形が用いられていることを明らかにした. この幾何学図形を中世のゴシック教会堂の横断面に適用して, 適合性を検討した. その結果, シャルトル, ランス, アミアンなどゴシック建築の古典的な教会堂において, 双正方形双円形接合図形と, これに組み合わせられた正方形格子図形とを併用する幾何学図形を用いていることが判明した. 2.石造天井のフリーハンド施工法の実験 ゴシック建築で採用されたリブ・ヴォールトのうち, ドーム状ヴォールトについてはサン・セルジュ教会堂を例にとって石造天井の頂部を実物大でフリーハンド施工実験を行なった. ヴォールト石材は比重1.5の大谷石, 接着材は重量比1対4対1の消石灰と砂と水を練り混ぜたモルタルである. 未硬化のモルタル接着力を実験によってあらかじめ調査し, この接着力を利用してヴォールト石材を積む場合, 峰リブに接する石層が最も困難であること, しかし, ロープの一端に約2kgの石塊を吊り下げた簡単な補助器具を援助することにより, この石層をフリーハンド工法で施工できることを実証した. 平頭状ヴォールトはケルン大聖堂を例にとって, 施工が最も困難な部分である内陣奥行方向の最頂部の石層を実物大でフリーハンド施工実験を行なった. この実験では石塊・ロープの他に伸縮せき板や細い棒などの補助器具を用いて, この石層をフリーハンド工法で建設できることを示した.
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