研究概要 |
世界の各地域から収集した大麦約3,200系統について、同位酵素に関与する7遺伝子座の遺伝変異を調べた。得られた結果は下記のように要約される。 1.7遺伝子座のうち、エステラーゼに関する3遺伝子座(Est-1,Est-2およびEst-4)では、それぞれ4,5および4種の複対立遺伝子が認められた。しかし、アスパラギン酸アミノ転移酵素、6ーリン酸脱水素酵素およびアコニット酸ヒドラターゼに関与するAat-3,Pgd-1,Pgd-2およびAco-1の遺伝子座では、各2遺伝子の変異がみられたに過ぎない。 2.これらの遺伝子座における変異は地域によって異なり、特に、ネパール、印度、パキスタンおよび西南アジアで大きな変異を示した。 3.エステラーゼに関与する3遺伝子座の複対立遺伝子を組合せた遺伝子型の変異は、大麦の起源地である西南アジアで大きく、この地域から離れるにつれて遺伝子型の種類は減少した。東アジアの遺伝子型は、ネパール、印度、パキスタンの南アジアのものとは異なり、また、トルコ、欧州およびエチオピアの遺伝子型は東アジアや南アジアとは違っていた。 4.Aat-3遺伝子座の変異は、主として、ネパールとそれに隣接する北印度の限られた地域でみられた。Pgd-1とAco-1遺伝子座の変異は、極めて限られた地域でみられ、前者はネパールとパキスタンで、後者の変異は南欧の系統に限られていた。 5.Pgd-2遺伝子座の変異は、トルコと欧州で多く、日本の系統でもみられた。 6.以上の地理的分化は、大麦の伝播の歴史を物語るものと考えられる。 7.供試した系統の同位酵素に関する情報は、データ・ベースとして構築し、多重検索できるシステムを開発した。
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