研究概要 |
コムギ条斑病菌の病原性関連因子として、菌体外毒素(グラミニンA),菌体外酵素(ペクチナーゼ),菌体外多糖類などが考えられている。これら因子と病原性との関係を明らかにするために、突然変異株の誘導を行なった。NTG(300ppm,4時間)処理及び紫外線照射により、4種の突然変異株(N-1,N-11,S-2,U-5)を得た。N-1株は親株と比較し生育がおそく、多量のグラミニンを生産するが、多糖類はほとんど生産せずまたペクチナーゼ活性は大差がみとめられなかった。N-11,S-2,U-5の3株はほとんどグラミニンを生産しなかった。多糖類はN-11株で比較的多量生産されたが、S-2,U-5株では親株と同等かそれ以下であった。ペクチナーゼ活性は3株共に親株よりやや低い傾向にあった。次に、上記4変異株の病原性を親株及び野生株と比較検討した。接種後10日目のコムギ幼苗(品種:チホク)の根を5cm切り、3段階の胞子濃度(【10^4】,【10^5】,【10^6】個/ml)液に24時間浸漬後ポットに移植し、15日後に病徴葉数と病原菌の分離を行ない、Wertらの病原性指数を用いて、病原性を判定した。グラミニンを多量生産するN-1株は親株より病原性が強かったが、あまりグラミニンを生産しないN-11,S-2,U-5株はいづれも親株より明らかに病原性が弱かった。また、圃場より分離した野生株のほとんどはきわめて病原性が強く、また多量のグラミニンを生産した。しかし、ごく少数ながら野生株の中にはグラミニン生産能力が低いにもかかわらず病原性の強い株もみとめられ、今後グラミニンと病原性との関係はさらに詳細に検討されなければならない。以上より、コムギ条斑病菌の侵入や発病の初期段階では菌体外多糖類や酵素よりも毒素の方が重要な役割を演じているものと結論される。
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